「愛の妙薬」をはじめとする、ベルカントオペラの代表的な作曲家ドニゼッティが書いた歌曲集「ポジリポの夏」をご存知でしょうか?
一般的にこの歌曲集の中で一番有名なのは「Il barcaiuolo(舟人)」ではないかと思います。
このようなソロの歌曲の他に、可愛いらしい二重唱が6曲収められています。
イタリア留学中、ソプラノ2人で歌えるデュエットが無いかと捜している時に、スザンナ・リガッチ先生から教わったのがこの「ポジリポの夏の夜」に含まれる一曲でした。
(↑イタリアのナポリ、サンタルチア港)
この曲集が出版されたのは1836年。
ドニゼッティ39歳。
その頃のドニゼッティは、たった3か月の間に父と母、そして未熟児で生まれた娘さんを亡くします。
そして7ヶ月半で流産した奥様が重体。
(この翌年、二人目に続き3人目の子どもと奥様が他界…)
家族の訃報に続き、仲の良い友人も世を去る。
仕事上でも自分の作品が偽装される事が続いたとか。
その上、当時のイタリアではコレラが蔓延した為ナポリの劇場が閉鎖される事態。
オペラ作品を多く書いたドニゼッティですが、その劇場が閉鎖されている期間には室内楽曲を書いたそうで、「ポジリポの夏の夜」もその中の一つ。
「ポジリポ」と言うのはイタリアのナポリ湾を見下ろす丘で、ドニゼッティ自身もナポリで暮らした時代があったようです。
冒頭の写真は私が留学中に実際に訪れたポジリポからの風景。
夏の夜ではなく、ポジリポの春のまだ日が暮れる前の写真です。
(↑当時閉鎖されたというナポリのサンカルロ劇場にも足を運びました。)
この作品が作られた年を考えると、彼の人生においては辛い時期であったと想像されます。
その時期の作品というと、深く沈んだ音楽かと思われますが、残された音楽は明るく軽やかで楽しい曲ばかり。
その中でも私のお気に入りの一曲がこちら。
《2重唱『Amor, voce del cielo(愛、天の声)』》
曲の方を先に知っていた私としては、作曲された背景を調べてみて、そんな時期にこんな可愛らしい曲が書けたものだと逆に驚きました。
辛い時期だからこそ明るいものを書きたかったのかなぁ。
今回、11月22日に開催するコンサートでは、藤原歌劇団のメゾソプラノ、丸尾有香さんと共に「ポジリポの夏の夜」の2重唱曲を全曲お届けします。
日本では演奏機会が少ない作品ですが、本当に可愛らしい作品なので、ぜひ皆様に知ってもらいたいという想いも込めて選曲しました。
チケットもまだご用意がございますので、良かったら遊びに来て下さい。
「ポジリポの夏の夜」ではなく、「武蔵小杉の秋の夜」です。笑
楽しい夜をご一緒できますように。
藤原歌劇団ソプラノ 楠野麻衣