2020年8月15~17日の3日間、藤原歌劇団のオペラ「カルメン」の幕が開き、無事におりました。
この公演は元々今年の4月25~27日に予定されていたもの。
《アルテリッカしんゆり》と名付けられた川崎市の芸術祭のオープニング公演となる予定でした。
稽古が始まったのは3月。
その頃は新型コロナもどうなるのか動向が見えず、本当に公演できるのかどうか不安を抱えつつも音楽稽古を終えて立ち稽古に入ったころ、世の中は一変して緊急事態宣言、自粛生活に入った。
音楽家はみんな仕事を失った。
7月に入ってカルメンの稽古再開の初日、監督の折江先生と演出の岩田さんからこの公演についての熱いお話があった。
「もうこの人たちにどこまでもついていこう」と思えたし、藤原歌劇団で良かった!と心から思った。
一般の方々にとっては、オペラなんて必要のない娯楽であり、この時期にお客さんを入れて公演をやるなんて迷惑だと思われても仕方ないとも思う。
ただ、私たちは歌を生業として生きていて、1934年から続いてきた伝統のある藤原歌劇団という団体を存続させるかつぶすかの瀬戸際にあった。
それを理解してもらいたいと個人的には思わないし、団体をあげて人様に迷惑をかけないための感染予防に尽くしてきた。
毎日の検温の記録、
マスクにフェイスシールド、
人が触る小道具を毎回消毒してくれるスタッフさん、
メイクさんは化粧筆を人ごとに変えて下さっていた。
これ以上何をどうすれば感染予防になるのか。
稽古中、世の中では舞台のクラスターのニュースが報道され、新国立劇場も宝塚も劇団四季も歌舞伎も、関係者の発熱や感染によって公演中止に追い込まれていた。
どの団体も精一杯努めた末のことだったと思うし、明日は我が身だった。
「もしも自分が感染してこの公演が出来なくなってしまったら…」と思わない日はなかったし、何をどこまでどう気を付ければいいのかもよく分からない。
みんなそうだと思うし、覚悟がある人しかいない現場だった。
カルメンをはじめとするこの作品に出てくるキャラクターは、みんな社会から抑圧された人間である。
生まれた土地や環境によっても。
みんなアウトロー。
どれだけ世の中から排除されてもいう事を聞かない、屈しない人たち。
折江監督、演出の岩田さん、鈴木マエストラの元で、この一か月私たちみんなが”カルメン“だった。
本番のステージに立って、ひとせき飛ばしの市松模様に並ぶお客様を見上げた時の気持ちはひと言では表せないし、きっと私は一生忘れない。
オペラ歌手楠野麻衣チャンネル
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ソプラノ 楠野麻衣