オペラ「カルメン」演奏後記〜ミカエラとして生きた日々〜

舞台音楽研究会の「カルメン」が無事に終わりました。

 

今回の原純さんの演出では、ミカエラにとって《指輪》がキーポイントとなりました。

ミカエラって、清楚で可憐でお嫁さんにしたいナンバーワン!みたいなイメージがあるかと思いますが、人殺しも厭わない山賊がいる山に一人で乗り込んでいくのですから、母性と可憐さ、そこに加えて芯の強さのある女性だと思います。

 

私はこれまでカルメンの仲間のジプシー、フラスキータ役ばかりやっていたので、ジプシーから見たらミカエラなんてケッ!と思う部分もあったのですが(笑)、やはり自分がミカエラとして物語の中に存在したときに見えてくる世界は全く違ったものでした。

 

3幕の山のシーン、危ない目に遭いながらもホセのためだけにここまで来て、

こんなに懇願しているのに、愛する人は他の女の人だけ見て身の破滅に向かっている…

 

ミカエラにとっては幼少の頃からホセだけを見てきたので(少なくとも今回の設定では)、

初恋であり、初の失恋でもあり、自分の未来の全てだった人の心を失って、

それでもお母様のところに連れて帰らなければ。

 

「お母様の危篤はミカエラがついた嘘だったのでは」、という見方もありますが、今回はちゃんと危篤だという設定でしたので、ミカエラとしては命懸けの3幕でした。

細かい演出だったので、どこまで気づいた方がいたかわかりませんが、
1幕ホセとの二重唱のあとに、ミカエラとホセはお互い許婚の約束として薬指にはめている指輪を見せ合います。

ホセが故郷の村を離れて会えない日々でも、ミカエラは毎日その指輪を見ながらホセと結ばれる日を夢見ていたのですよね。

 

しかし、そんな大事な二人の愛の証の指輪を、なんと2幕でホセはカルメンにあげてしまうのです!
(ヒドイ!!!)

察しの良い方はお気付きでしょうが、終幕でカルメンが「あんたがくれた指輪返すよ!」と投げ捨てるのは、

ミカエラにとっても愛の証であった、あの指輪。。。!

 

そして今回の演出では、カルメンが刺し殺された後に出演者が全員舞台に上がり、それぞれの形でカルメンの死を弔うというもの。

主要キャストにはそれぞれの感性で好きにやって良いという原さんからの宿題が出ました。

 

あのラストシーンをミカエラとして見たとき、彼女は何を思うのかと考えたときに、

自分の中のミカエラはどうしてもカルメンに目を向けることができず、やはりホセのことしか頭になかった。

通し稽古をやるまで、《首に下げたロザリオを外す》という芝居をするつもりで臨んでいたのですが、
全幕通していざそのシーンにたどり着いたとき、自分の動線上に例の愛の証の指輪が転がっていて

ミカエラとしては、その指輪を手に取らずにはいられなかったわけです。

 

通し稽古の後に、演出の原さんとお話して、一度は「指輪拾うのNG!」(投げられたシーン見てないはずだからわかってるのおかしいし)と言われましたが、数日間の検討の後、最終的には「動線上にあれば拾うのもあり!」とのGOサインをいただきました。

結果、本番1日目は指輪を手に取り、2日目はロザリオを外す(拾えない位置だったので)とうエンディングを迎えました。

 

お客様にはどう見えていたのでしょうね。

 

楠野麻衣としては、ホセの何がいいのかさっぱりわかりませんが、
楠野の中にいるミカエラとしては《ホセが全て》というくらい、ホセを愛したステージでした。

 

こんなにホセを愛した日々でしたが、来月4月30日は帝国ホテルで上演する藤原歌劇団のオペラ「カルメン」でフラスキータとして出演します。

ミカエラの清純さは一度胸にしまい、今度はジプシー女として、

金持ちの老人に惚れられて大金持ちになる喜びを高らかに歌い上げたいと思います。笑

オペラ&ディナー第15回ジ・インペリアルオペラ 藤原歌劇団公演「カルメン(原語上演・字幕付)」フラスキータ役

 

オペラの現場は始まったらいつか終わってしまう。

 

愛しい日々でした。

 

 

応援くださった皆様、関係者のみなさま、ありがとうございました。

またいつかミカエラと出会えたらしあわせです。

 

 

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日本オペラ振興会 藤原歌劇団 

ソプラノ 楠野麻衣

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