オペラ歌手の楠野麻衣です。
このブログではいつもと違って、最近出会ったステキな音楽家さんについて綴って参ります。
常磐津齋櫻(ときわずさいおう)さんとの出会い
普段はオペラ歌手として西洋音楽の畑にいる私ですが、いつも良くしてくださっているお客様から「邦楽の世界もおもしろいよ!こんな素敵な人がいるんだよ」とご紹介いただき、常磐津齋櫻(ときわずさいおう)さんという方を知りました。
ぜひ一度お会いしてお話を聞いてみたい!ということで、<常磐津齋櫻(ときわずさいおう)三味線教室>にお邪魔して直接お聞きしたことを、みなさまにもご紹介したいと思います。
写真提供:常磐津齋櫻事務所
無知の知。「常磐津(ときわず)」とは…
最初に「常磐津齋櫻さん」というお名前を聞いたときに、「さすが、伝統芸能をやってらっしゃる方は難しいお名前だなぁ」なんて思ったのですが、三味線の世界においては《常磐津(ときわず)》という流派があるのですね。
恥ずかしながら、邦楽に疎い私は存じ上げなかったのですが、三味線の世界にもいろいろとジャンルがあり、齋櫻さんは「常磐津協会」というところの正会員でいらっしゃるそうです。
思い返すと、自分が普段初対面の方とお話する時に「日本オペラ界には藤原歌劇団と二期会があって、私は藤原歌劇団の団員で…」というお話をすると、ポカンとされることが多いのです。
同じ音楽の世界でいても、自分が関わりのある分野以外は知らないことだらけなのだと実感しました。それこそ今回の出会いが私にとって「無知の知」につながりました。感謝です。
写真提供:常磐津齋櫻事務所
英語学を学び、会社員を経て三味線奏者に…!
常磐津齋櫻さんをご紹介いただいたときに、まず興味が湧いたのは齋櫻さんのバックグラウンドでした。
私の中に、「邦楽の演奏家さんは、お家柄が良くて、幼き頃からお稽古をつけられ、伝統的に受け継がれているもの」という勝手なイメージがあったのですが、齋櫻さんはそのイメージとはかけ離れた経歴をお持ちなのです。
というのも、ご出身は一般家庭で、青山学院大学の文学部で英語学を学び、さらに会社員の経験を経た後に、習い事から始めてプロの三味線奏者になられたというのです!
「専門的な音楽教育は受けていないんですよ~!」
と笑顔で語られる齋櫻さん。素敵です。
私自身も、徳島の総合大学の音楽学部声楽コース卒業という経歴で、東京の「音楽大学」と名の付くような学歴ではありません。(小さな学部である分、恩師たちには随分かわいがっていただき、地方ならではの恩恵もありました)
“王道ではない切り口からプロを目指す”という点においては、共感するところもあり、私以上に齋櫻さんはご苦労も多かっただろうと思うと、お話される姿がキラキラして見えました。笑顔が似合う方です。
写真提供:常磐津齋櫻事務所
三味線をはじめたきっかけが不純でステキ!
それにしても、「なぜ三味線を始めたのか」が気になります。
ご本人に伺うと、三味線を習い始めた頃の齋櫻さんは、お着物の魅力に憑りつかれていたそうで、「着物を着て出かけたかったから、着物で出来る習い事がしたかったんです」とのこと。
なんとも不純でステキな動機ではありませんか✨
オペラの世界に置き換えると「ドレスが着たいから声楽の勉強をはじめました」と言っているようなものですよね。笑
そこから真摯に三味線と向き合って研鑽を積み、プロの演奏家として人生を確立してしまうなんて、なかなか出来ることではありません。
何かを始めるときの「きっかけ」なんて何でも良くて、一歩踏み込んだ先で自分自身がどうするかで人生が決まるのだと教えられた気がしました。
写真提供:常磐津齋櫻事務所
演奏家として、指導者として
幅広くお話を伺う中で、演奏の仕事も指導のお仕事も両立されているとのことでしたので、「どちらに重きを置かれてますか?」ということもお聞きしました。
ご本人としては、「指導者として教室を運営するのは、演奏者としての理念を実現する方法の一つ。あくまで演奏者であることが前提」だそうです。
演奏者としての理念〜過去から未来へ繋ぐ〜
それでは、演奏家としてどんなことを考えられているのか伺うと、
過去から継承した伝統的な三味線音楽を、現代の人にお届けし、未来へ繋いでいくこと
を大事に考えているとのことでした。
写真提供:常磐津齋櫻事務所
三味線奏者の普段のお仕事
三味線の演奏家さんは、普段どのように仕事されているのか伺うと、大きく分けて3種類あるとのこと。
- 伝統的な演奏形式や、オーソドックスな形での演奏の仕事
- 現代の日本人にも、理解しやすい方法、受け入れてもらいやすい形の公演
- スタンダードな日本の文化を知ってもらうための海外向けインバウンドの仕事
これらも現在のオペラ界が実践していることと通じる部分が多々あります。
解説を交えたレクチャーコンサートや、参加型企画、西洋のオペラを現代の日本人に伝わりやすくするための字幕表示や日本語訳詞上演などがまさにそうですよね。
三味線もオペラも想いは同じ
この日、齋櫻さんと腰を据えてお話してみて感じたことのは、ある意味で私たちは「同じなのだ」ということ。
日本文化の三味線と西洋文化のオペラの世界、全く違う様に見える2つの世界も、受け継いだ伝統の美しさを未来の人に繋ぎたいという志は同じだと感じたのです。
写真提供:常磐津齋櫻事務所
邦楽は敷居が高い?
人からよく言われる「オペラは敷居が高い」という言葉。
「自分が簡単に足を踏み入れられる領域ではないと感じる」という意味で言うならば、私自身は古典芸能の世界に対してそのように感じていました。
でもこのように、常磐津齋櫻さんという人を知ることで、邦楽の世界が少し身近に感じられ、一日お会いしただけで「なんか三味線の演奏もちゃんと聞いてみたいかも!」と影響を受けています。
私を応援してくださる方にも、齋櫻さんを知ってもらいたいなぁ!
常磐津齋櫻さんの演奏
ここまでブログを読んでくださった方は、きっと常磐津齋櫻さんの演奏を聴いてみたいと思われているはず!
…ということで、常磐津齋櫻さんがYoutubeで発信している動画をいくつか紹介し、本日のブログの結びとさせていただきます。
芸術的に突き詰めた演奏ばかりではなく、お座敷遊びについてなど、日本の文化を知ることができる内容をたくさん発信されているので、楽しくご覧いただけます。
ぜひチャンネル登録してみてくださいね!
ご興味がある方はこちらからお問い合わせください。
東京・銀座、人形町の三味線教室
常磐津齋櫻三味線教室
TEL→090-3807-4051
次回のブログでは、実際に《常磐津齋櫻(ときわずさいおう)三味線教室》で体験レッスンを受けてみての体験記をお伝えします。
オペラ歌手 楠野麻衣